#4 喫煙がアスリートに及ぼす悪影響について
今回の内容は成人されたアスリートはもちろん、特に未成年のアスリートやその親御さん、担当される指導者の方々に読んで頂きたい内容になっています。
自チームの選手やお子さんへ喫煙の悪影響を伝えたい時などにご活用頂ければ幸いです。
百害あって一利なしの喫煙ですが、今回はその百害の中でも特にスポーツパフォーマンスに影響を及ぼすと考えられるものに絞って解説しております。
①腱が脆くなる
タバコに含まれるニコチンは血管を収縮させて、全身の血流量を低下させます。
血液が酸素や栄養を体の隅々まで運搬してくれるため、ヒトの細胞は活動することができ、細胞が活動してくれることで傷ついた組織の修復は行われます。
そして腱は筋と比較して血流が少ない組織です(コラーゲンが多いため)。言い換えると、筋や皮膚と比べて修復されにくい組織になります。
長距離のランニングや繰り返されるジャンプ、ピッチングなどで腱は酷使され、微細損傷が生じます。これに対して修復が間に合っていると、ケガや痛みは生じにくくなります。
ところが喫煙をすると、微細損傷が生じた腱に十分な血液が行き渡らず、修復が追いつかなくなりやすくなります。これが積み重なるとどんどん腱が脆くなっていき、痛みが出たり、アキレス腱炎などの慢性腱炎や、腓腹筋肉離れなどの外傷が生じやすくなるのです。
※肉離れには重症度に応じてⅠ〜Ⅲ度に分けられます。Ⅰ度は筋腱移行部の血管損傷、Ⅱ度は筋腱移行部の損傷、Ⅲ度は腱性部の完全断裂です。「肉離れに腱は関係ないでしょ?」と思われた方もいるかもしれませんが、文字通り肉離れは腱が脆くなると生じやすくなります。
②筋力やパワーも低下する
持久的なパフォーマンスや呼吸機能への悪影響は周知の事実かと思いますので、本記事では敢えて割愛させていただきます。喫煙は意外にも、筋力やパワーにも悪影響を及ぼすのです。
まず、最大筋力や爆発的なパワーに発揮には大脳の興奮が大きく関わっています。
そしてタバコに含まれるニコチンには、脳や神経を興奮させる作用があります。よく「タバコを吸うと頭がスッキリする」と言われているのはこのためですね。
ただ、喫煙を習慣的に行うことにより、ニコチンがないと神経が興奮しにくい体質へと変わっていきます。こうなると自分の意思では大脳が興奮しにくくなり、結果として最大筋力や瞬発力が発揮しにくくなっていくのです。
また、筋力やパワーには筋量も大きな影響を及ぼします。
筋肉はトレーニングを行うことで合成、つまり筋肥大に向けてのスイッチが入ります。合成を行う上で酸素や栄養は必須ですが、喫煙により血流が低下した状態では十分な酸素・栄養分が届かず、結果として合成量が低くなることが考えられるでしょう。
せっかくトレーニングをするのであれば、その効果を最大限にするためにも喫煙は避けるのがベストです。
③リカバリーへの悪影響
実は競技レベルの高いアスリートほど風邪をひきやすく、上気道炎の発症リスクは陸上長距離選手で一般人の約5倍と言われています。
喫煙は気道の粘膜や肺にダメージを与えます。傷ついた気道はよりウイルスに感染しやすくなるため、風邪をひく確率はさらに上昇するでしょう。
また、ニコチンの代謝でビタミンCが使われてしまうという問題もあります。
ビタミンCは腱や靭帯に多く含まれるコラーゲンの生成に必須である他、抗酸化作用を持ち疲労回復や免疫に関わる重要な栄養素です。
①腱が脆くなるでは、血流量の低下が腱の修復を妨げると述べました。さらにそれと合わせて、ビタミンC代謝に対する悪影響という点からも、酷使した腱や靭帯の修復を妨げることがわかります。
加えて抗酸化作用が低下することで、疲労回復や免疫能力の低下という点からも、喫煙はリカバリーに悪影響を及ぼします。百害あって一利なしの喫煙ですが、特に練習量が増えている時やシーズン中は絶対に避けるべきでしょう。
以上、今回は喫煙による害の中でも、特にスポーツパフォーマンスに影響を及ぼすと考えられるものをご紹介いたしました。
喫煙には上述したもの以外にも、数多の健康に対するデメリットがあります。
アスリートは一般人よりも体を酷使しています。あなたの競技人生はあとどれくらいでしょうか?タバコを吸わず、ぜひご自身の体を大切になさってください。
柔道整復師/鍼灸師/日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナー
吉澤 悟
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